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多焦点眼内レンズ(老眼治療)

多焦点眼内レンズとは

多焦点眼内レンズとは白内障手術では、濁った水晶体を取り除き、眼内レンズを挿入します。眼内レンズには単焦点と多焦点のタイプがあり、多焦点眼内レンズは複数の距離に焦点を合わせることができますが、暗い場所で、光源の周囲にぼやけた輪や眩しさが見える「ハロー・グレア」やコントラスト感度の低下が起こることがあります。また、近方・中間・遠方のうち2つ以上に焦点を合わせることができる分、どうしても費用も高くなります。一方で単焦点レンズは、近方・中間・遠方のうちどれか1つのみに焦点が合うため、レンズが得意としている距離以外から物を見る場合は、メガネが必要になります。
当院では、患者様のライフスタイルや目の状態に考慮して、様々な種類の眼内レンズを提供しています。多焦点眼内レンズに詳しい視能訓練士も在籍しているので、お気軽にご相談ください。

多焦点眼内レンズの種類

多焦点眼内レンズは焦点の数が選べ、焦点を合わせられる距離の数は製品によって異なります。

2焦点眼内レンズ

「遠方」「中間」「近方」のうち2つの距離に焦点を合わせることができます。具体的に言いますと、「遠+近」「遠+中」「中+近」のように組み合わせすることも可能です。多焦点眼内レンズの中でも、焦点距離が限定されているため、見え方の質が比較的高いです。しかし、いずれかの距離で見えづらさが生じるため、その場合はメガネが必要になります。

3焦点眼内レンズ

このレンズは、「遠方」「中間」「近方」の3つの距離にピントを合わせることができます。2焦点眼内レンズではカバーできない距離も対応できるため、裸眼で過ごせる機会が増えやすくなります。
多焦点眼内レンズは、光を各焦点距離に振り分けることで、複数の距離にピントを合わせます。しかし、焦点距離が3つに増えることで、それぞれの距離への光の配分が少なくなります。特に「中間」や「近方」では明るさの確保が必要です。また、他の眼内レンズと比べて、ハロー・グレアの症状が出やすいとされています。

5焦点眼内レンズ

「遠方」「中間」「近方」「遠中」「近中」の5つの距離にピントを合わせることができます。3焦点眼内レンズでは視力が落ち込みやすかった「遠方~中間」「近方~中間」でも、しっかりと見えるようになりました。
これにより、手元から遠くまでの物が見えやすくなり、多くの方が日常生活を送る際、裸眼で快適に過ごせるようになりました。現在(2023年7月)では、国内で唯一の5焦点眼内レンズであるHanita Lenses社(イスラエル)製「インテンシティ(Intensity)」が自由診療で提供されています。

焦点深度拡張型(EDOF)眼内レンズ

「遠方から中間まで連続」して見えることを特徴とした眼内レンズです。このように、「遠方」「中間」「近方」の焦点距離に合わせる単焦点・多焦点眼内レンズとは全く違う特徴を持っています。
新しいコンセプトで開発され、「元々持っている水晶体による自然な見え方」を追求して作られたレンズです。
2焦点・3焦点眼内レンズと比べて、ハロー・グレアが軽減されている点も魅力です。ただし、手元の見え方が弱く、老眼鏡の使用頻度が高くなる可能性があります。

多焦点眼内レンズの
構造による違い

眼内レンズは主に「回折型」と「屈折型」の2種類に分類されます。焦点距離や構造によって、メリットもデメリットも変わっていきます。

回折型

光の「回折現象」を活用して、光を複数の距離に振り分ける作りです。レンズ表面には、光を回折させるための同心円状の段差があります。しかし、光を振り分ける際にエネルギーロスが発生し、これがコントラスト感度の低下やハロー・グレアを引き起こすことがあります。

屈折型

「遠方」と「近方」の異なる屈折力を持つ領域が、同心円状に交互に配置されているため、複数の距離にピントを合わせることができます。回折型と比べて、屈折型は光のエネルギーロスが少なく、コントラスト感度が比較的高いです。
しかし、ハロー・グレアが発生しやすいデメリットもあります。また、瞳孔径の変化により「遠方」と「近方」への光の量が変わるため、年齢によって瞳孔径の調節力が低下している方には適していません。

プログレッシブ型

従来の回折型や屈折型とは異なるコンセプトで開発されました。球面レンズの「中心を通る光」と「周辺を通る光」で焦点距離が異なる「球面収差」を活かして作られています。これにより、遠方から中間までが連続して鮮明に見えるようになっています。
また、回折型と比べて光エネルギーのロスが少なく、コントラスト感度の低下やハロー・グレアの発生もほとんど起こりません。世界初のプログレッシブ型の眼内レンズとしては、「ミニウェル・レディー(MINIWELL ready)」が挙げられます。

選定療養と自由診療の違い

多焦点眼内レンズには、選定療養対象のレンズと完全自由診療のレンズの2種類に分けられます。これにより、患者様のご負担額や使用できるレンズが変わります。詳細は以下の項目からご確認ください。

「選定療養」は一部が
保険適用に

2020年4月から、多焦点眼内レンズを用いた白内障手術が選定療養の適用となりました。選定療養とは、保険適用外の治療を保険適用と組み合わせて受ける制度で、追加費用を負担するものです。
白内障手術では「手術+単焦点眼内レンズ」は保険適用ですが、多焦点眼内レンズを希望する場合は、手術費用は保険適用(1~3割負担)となり、レンズの差額のみが自費負担となります。これにより、以前よりも多焦点眼内レンズを選択しやすくなりました。

「自由診療」で高性能な
多焦点眼内レンズを

自由診療では約2ヶ月間、完全自費での負担となります。
多焦点眼内レンズは、米国ではFDAの、EU各国ではCEマークの承認を受けて広く使用されていますが、日本国内で選定療養に使用するには、厚生労働省の薬事承認が不可欠です。ただし、薬事承認には莫大な費用と時間がかかるため、市場規模の小さい日本向けに承認を取得するメリットが少なく、米国企業の一部製品のみが承認を得ています。
それにより、高性能な多焦点眼内レンズは「厚生労働省未承認」として自由診療で提供されているのです。

多焦点眼内レンズの
メリット・デメリット

メリット

近くも遠くも
見えるようになる

多焦点眼内レンズの最大のメリットは、近くと遠くの両方にピントが合いやすいことです。これにより、白内障の改善だけでなく、老眼も改善できるため、生活の質の向上にも繋がります。

種類が多い

以前は遠方と近方にピントが合う2焦点眼内レンズがよく使用されてきましたが、近年では遠・中・近方にピントが合う3焦点眼内レンズや連続焦点型眼内レンズが一般的になっています。また、自由診療で5焦点眼内レンズも選択できるようになりました。
ライフスタイルやご希望に考慮しながら、患者様1人ひとりに適した眼内レンズを提案します。

多くの方が眼鏡・
コンタクトなしで
日常生活を送れる

多焦点眼内レンズを挿入した方の約90%が、眼鏡やコンタクトなしで日常生活を過ごせるようになったと報告されています。ただし、眼鏡やコンタクトを装用するシチュエーション(車の運転時など)が発生する可能性もあります。

デメリット

コントラストの低下、
ハロー・グレア

多焦点眼内レンズは、各距離に光エネルギーをまんべんなく分配するため、単焦点眼内レンズよりもコントラストが低下しやすくなります。また、夜間に信号や対向車のライトを見ると、光の周りに輪が見えたり(ハロー)、光が伸びて眩しさを感じたり(グレア)することがあります。ただ、これらの減少は通常、3カ月程度で慣れる方が多いです。

高価

単焦点眼内レンズと比べて、多焦点眼内レンズは費用が高くなります。ただし、選定療養制度を利用して、負担を軽減することも可能です。

患者様によっては
適していないことも

白内障以外の眼疾患を持っている方や、瞳孔が小さい方は、多焦点眼内レンズを使用すると見にくくなる恐れがあるため、適応外となる可能性が高いです。また、見え方に対してこだわりが強い方にも、多焦点眼内レンズは適していません。

当院で取り扱う
眼内レンズの種類

医療費 選定療養 自由診療 選定療養 自由診療 選定療養
商品名 クラレオン・
パンオプティクス
インテンシティ ヴィヴィティ ミニウェル テクニス・
シナジー
タイプ 回折型 回折型 波面制御
テクノロジー
プログレッシブ(EDOF) 回折型
ピントの数 3焦点 5焦点 3焦点 3焦点 連続焦点
近方視の焦点距離 40cm /60cm 40cm / 60cm
/ 80cm / 130cm
/遠方
70cmまで 累進焦点 33cm~約70cm
乱視矯正 ×

他にも多焦点眼内レンズを取り扱っています。
お気軽にご相談ください。

クラレオン・
パンオプティクス

クラレオン・パンオプティクス(Clareon Pan Optix)は、アメリカのAlcon社によって製造された回折型の3焦点眼内レンズで、2019年に国内で初めて厚生労働省に認可され、2020年の選定療養の開始と同時に導入されたレンズです。2023年まで、選定療養対象となる3焦点眼内レンズはこのレンズしかありませんでした。
このレンズは、以前から国内で承認されているPan
Optixの優れた特徴を持ちながら、Alconの最新素材であるClareonを使用しており、長期間の透明性を従来のものよりさらに高めています。ENLIGHTENテクノロジーを駆使することで、遠くの視力を犠牲にせず、40~60cmの近距離から中距離にかけて連続的にピントを合わせることができ、眼鏡の使用頻度を減少させます。
また、コントラスト感度にも優れており、瞳孔径が3.0mmの状態でも光エネルギーの利用率は88%に達し、どの距離でも優れたコントラスト感度を保つことを可能にしました。さらに、瞳孔径に依存しにくい4.5mmの回折ゾーンが使用されているため、薄暗い環境でも見えにくさを最小限に軽減しています。

独自の光学技術で近方・
中間距離・遠方の
クリアな視界を実現

読書やスマートフォンの画面を見るのに適した40cmの近距離から、パソコンの操作や料理に適した60cmの中間距離、そしてテレビ視聴や運転、屋外スポーツなどに適した5m以上の遠距離までといった様々な距離に焦点が合います。どの距離でも、より見え方が鮮明になります。

独自のエッジデザインで
手術後の「エッジグレア」
リスクを軽減

新技術を用いたレンズのエッジデザインにより、白内障手術後に光の反射によってできる大きな光輪や半輪「エッジグレア」のリスクが軽減されます。

レンズの長期的な
透明性を確保

新素材Clareonを使用することで、レンズ内の水泡や表面の水滴の発生を抑え、長期間にわたって優れた透明性を維持します。

高精度な乱視矯正

乱視用レンズは、軸が回転しにくいデザインを取り入れているため、より高精度な乱視矯正が実現できます。

インテンシティ

従来の白内障手術で使用される多焦点眼内レンズは、近方・中間距離・遠方のうち2つまたは3つの距離にピントが合う2~3焦点タイプがよく用いられてきました。
しかし、当院で提供している「インテンシティ」は、これに「遠方~中間の間(遠中)」と「中間~近方の間(近中)」を加えた、5つの距離に焦点が合う5焦点眼内レンズです。
ピントの合う距離が多いため、裸眼でも快適な毎日を送ることが可能です。
インテンシティは、2019年にヨーロッパの安全基準を満たし「CEマーク」を取得しており、国内では2020年から自費診療として取り扱われています。

コントラスト感度が高い

独自のレンズ構造により、光のエネルギーロスが最小限に抑えられています。従来の2焦点眼内レンズでは約20%、3焦点眼内レンズでは約12%のロスがありましたが、インテンシティでは6.5%にまで低減されています。これにより、コントラスト感度、つまり見え方の質が大幅に向上されました。

ハロー・グレアが
抑えられる

ハロー・グレアとは、夜間や暗い場所で光が滲んだり、眩しく見えたりする現象です。多焦点眼内レンズにおける大きなデメリットとして、このハロー・グレアが発生しやすいことが挙げられました。しかし、インテンシティは特殊な構造により、ハロー・グレアが生じにくくなっています。そのため、夜間の外出・ドライブが多い方にお勧めできます。

夜間や暗い場所でも
視界がクリア

インテンシティは、瞳孔径の大きさに合わせて光の配分が最適化される作りをしています。夜間や暗い場所で瞳孔径が小さくなっても、違和感なく良好な視界を提供します。

ヴィヴィティ

Alcon社の最新の多焦点眼内レンズで、非回折型の焦点深度拡張型(EDOF)レンズです。
遠方から中間距離まで連続的にピントが合い、ハロー・グレアが非常に少なく、コントラスト感度の低下がほとんど見られないというメリットがある一方で、手元が見えにくいというデメリットもあります。
2020年から欧米で普及し、日本でも2023年に厚生労働省からの承認を得て、選定療養対応の眼内レンズとして販売・使用開始されました。

遠方から中間、そして
実用的な近方距離まで
連続的に見える

レンズ表面の「波面制御領域」を使用し、「近方〜中間」と「中間〜遠方」を一つの波面に伸ばすため、元々持っていた水晶体によるクリアな視界を実現することができます。

単焦点レンズのような
コントラスト感度

「波面制御型焦点深度拡張構造」を採用しており、光を各距離に振り分けないため、単焦点眼内レンズとほぼ同じようなコントラスト感度を維持しながら高品質な視界を実現させます。

他の眼疾患を合併していても適用できる可能性がある

単焦点眼内レンズに近い作りをしているため、黄斑変性症や糖尿病網膜症、緑内障などを患っていても、手術・挿入できることもあります。

ハロー・グレアを
最小限に抑える

光の回折現象を活かす従来の多焦点眼内レンズとは異なり、波面制御型の構造を採用しているため、ハロー・グレアなどの異常光視症がほとんど起こりません。起こる確率はほぼ0%で、単焦点眼内レンズとほとんど変わりません。

ミニウェル

Mini WELL(ミニウェル)は、SIFI MedTech社が製造した焦点深度拡張型(EDOF)の多焦点眼内レンズです。従来のミニウェルに加え、近方視力を強化したMini WELL PROXA(ミニウェル
プロクサ)が登場し、現在2種類が存在します。
多焦点眼内レンズは、メガネの依存度を減らし、白内障と老眼を同時に改善できるというメリットがある一方で、ハロー・グレアやコントラスト感度の低下などのデメリットもあります。ミニウェルは、光の振り分けを行わないEDOF構造を採用し、コントラスト感度を保ちながらハロー・グレアを軽減します。
ただし、近方視力には若干弱く、近くを見る際にはメガネが必要になることもあります。

2つのレンズで1組

ミニウェルは両目に挿入することを前提としているレンズです。これにより、連続的でかつ自然な視界が得られます。
ウェルフュージョン(WELL Fusion)システムでは、2つのレンズが1組となり、焦点深度拡張型(EDOF)と多焦点眼内レンズのデメリットをお互い補っていきます。

どの距離でも
高い視力が得られる

ウェルフュージョンシステムでは、どの距離でも一貫して高い視力が得られ、視力の差異が発生しません。この均一性により、ハロー・グレアなどの視覚障害が生じにくくなっています。また、コントラスト感度も高く、安定した見え方を提供します。

テクニス・シナジー

ジョンソンアンドジョンソンビジョン社が製造した多焦点眼内レンズで、2焦点の回折型レンズとEDOFレンズを組み合わせたハイブリッド型です。近方から遠方まで連続的にピントを合わせることができ、ハロー・グレアも比較的少ないです。

レンズの作り

2焦点の回折型レンズとEDOFレンズを組み合わせた、ハイブリッド型多焦点眼内レンズです。これにより、近方の33cmから中間距離~遠方まで連続的に見ることが可能になりました。

コントラストの高さ

目全体の色収差を抑え、どの距離でもコントラストが高くなるように作られています。独自設計により、瞳孔径を問わず、明るい場所でも暗い場所でも高いコントラストが保たれます。

暗い場所でも良好な
視力が得られる

多焦点眼内レンズは、光のロスによるコントラスト低下が問題視されてきましたが、テクニス・シナジーは光のロスが少ないとされています。それにより、暗い場所でもコントラストを保つことができます。

ハロー・グレアの軽減

ハロー・グレアが起こりにくく、手術後でも夜間のドライブがスムーズに行えます。また、LED光源の多い紫色光にも対応しており、パソコンやスマートフォンの画面が見やすくなります。

多焦点眼内レンズの
注意事項

コントラスト
感度の低下

多焦点IOLは、単焦点レンズに比べてコントラスト感度が低くなることがあります。特に、暗い場所や薄明かりの環境で、物がぼやけて見えることがあります。

ハローやグレアの発生

夜間や低照度環境で光がにじんで見えるハロー(光の輪)や、眩しさを感じるグレアが生じることがあります。これらの症状は、特に夜間運転などに支障をきたす場合があります。

完全な眼鏡不要とは
限らない

多焦点IOLは遠近の視力を改善しますが、細かい文字を読むときや特定の作業を行うときに、老眼鏡などの眼鏡が必要になる場合があります。

適応期間が必要

多焦点IOLに慣れるまでに数週間から数か月かかることがあります。この期間中に視覚が不安定に感じられる場合もありますが、多くの人は徐々に慣れていきます。

個々の視覚ニーズに
適合しない可能性

特定の職業やライフスタイルによっては、多焦点IOLが適さない場合があります。夜間運転や細かい作業が多い人には、単焦点レンズやトーリックレンズの方が適していることがあります。

乱視の矯正が限られる

多焦点IOLは軽度の乱視には対応できますが、重度の乱視を矯正する場合にはトーリックレンズの併用が必要です。乱視が矯正されない場合、視力の質が低下する可能性があります。

手術後の結果が
個人差がある

多焦点IOLの効果は個人差が大きく、期待通りの結果が得られない場合もあります。術前に医師と十分に相談し、期待値を調整することが重要です。

費用の問題

多焦点IOLは通常、保険適用外であり、手術費用が高額になることがあります。コスト面も考慮に入れて検討する必要があります。

他の眼疾患が
影響する可能性

緑内障、黄斑変性症、糖尿病性網膜症などの眼疾患がある場合、多焦点IOLの効果が十分に発揮されないことがあります。これらの疾患がある場合、医師とリスクについて話し合うことが必要です。

多焦点眼内レンズの費用

選定療養

  • 手術費用は保険適用となります。
  費用(税込) 乱視用費用(税込)
クラレオン・
パンオプティクス
308,000円 352,000円
ヴィヴィティ 308,000円 352,000円
テクニス・
シナジー
308,000円 352,000円

自由診療

  • 手術費用も自己負担となります。
  費用(税込) 乱視用費用(税込)
インテンシティ 550,000円 616,000円
ミニウェル 528,000円 594,000円