目の黒い影が動く…
(飛蚊症)
飛蚊症(ひぶんしょう)は、明るい場所や白い壁、青空を見た時に、目の前に糸くずや虫のような浮遊物が見える症状です。視線を動かしても浮遊物が一緒に移動し、瞬きや目を擦っても消えません。暗い場所では浮遊物が見えにくくなるという特徴をしています。
飛蚊症はほとんどの場合、加齢に伴う生理的なもので、時間とともに慣れていくため心配はありません。しかし、早期治療が必要な病気のサインとして生じている可能性も考えられるため、飛蚊症を自覚したら一度受診することをおすすめします。
浮遊物の大きさや形状、数はさまざまで、目線の動きに合わせてついてきます。特にご高齢の方や近視が強い方に多く見られますが、若い年齢層の方にも起こり得ます。
飛蚊症の見え方チェック
飛蚊症の症状は、視界に小さな黒い点や糸、雲状の影が浮かんで見える状態です。これらの影は、まるで蚊が飛んでいるように見えることから「飛蚊症」と呼ばれています。見え方の特徴として、以下の点が挙げられます。
浮遊物の形状
飛蚊症で見える影の形はさまざまで、点状、糸状、蜘蛛の巣状、あるいは煙や雲のように見えることがあります。また、リングや円形の影が見えることもあります。これらは、硝子体内に浮遊する微細な物質や異常が影となって映し出されているためです。
動き
見える影は視線を動かすとそれに合わせて動きますが、完全に視線に追随するわけではなく、少し遅れて動くように感じることがあります。これは、浮遊物が硝子体の中を漂っているためで、視線を動かした後に硝子体内で浮遊物がゆっくりと流れるように動くからです。
明るい背景で目立つ
飛蚊症の影は、特に明るい背景、例えば青空、白い壁、またはコンピュータの画面を見ているときに最も目立ちます。暗い場所では影はあまり目立たず、日常生活においてはそれほど気にならないこともあります。
一時的な変化
飛蚊症の見え方は、時間や状況によって変化することがあります。浮遊物の位置が変わることで、影が見えなくなったり、逆に目立つようになったりすることがあります。また、目を閉じても飛蚊症の影は見えないため、目の表面ではなく内部に原因があることが分かります。
飛蚊症の原因
加齢
飛蚊症の最も一般的な原因は、加齢による硝子体の変化です。硝子体は目の中で光を屈折させる透明なゼリー状の物質で、網膜に接しています。加齢とともに、この硝子体が収縮して部分的に液体化し、小さな塊や繊維状の構造ができることがあります。これらの塊や繊維が影を作り、視界に浮かぶ点や線として認識されるのが飛蚊症です。このタイプの飛蚊症は、特に40歳を過ぎた人々に多く見られます。
生まれつき
飛蚊症は、先天性の要因によっても発生することがあります。例えば、出生時に既に硝子体に異常がある場合や、遺伝的な要因で眼の内部に微細な異常が存在する場合があります。これらの先天性飛蚊症は、通常は視力に大きな影響を与えませんが、長期間にわたって症状が持続することがあります。
後部硝子体剥離
加齢に伴い、硝子体が網膜から剥がれることがあり、これを後部硝子体剥離と呼びます。後部硝子体剥離は比較的一般的で、多くの場合自然に起こります。この過程で、硝子体が収縮し、網膜に接していた部分が剥がれると、視界に浮かぶような影が現れることがあります。飛蚊症の症状が急に現れたり、視界に光が走る(光視症)場合は、網膜に問題が生じている可能性があるため、早急に眼科医の診察を受けることが推奨されます。
網膜裂孔、網膜剥離
網膜裂孔とは、網膜に小さな裂け目ができる状態を指します。この裂け目が原因で出血や液体が硝子体に流れ込むことがあり、これが飛蚊症の原因となります。網膜剥離は、網膜が基底膜から剥がれる状態で、視力に深刻な影響を及ぼす可能性があります。網膜裂孔や剥離は、治療が遅れると視力が失われるリスクがあるため、緊急の治療が必要です。
眼底出血
糖尿病や高血圧などの慢性疾患が原因で、眼の中で出血が起こることがあります。特に、糖尿病網膜症では、新しい血管が網膜や硝子体内で形成されやすく、これらの血管が破れて出血することがあります。この出血が硝子体に入り込むと、視界に黒い点や線として認識され、飛蚊症の症状が現れます。眼底出血は、原因となる病気の治療と共に、適切な眼科治療が必要です。
ぶどう膜炎
ぶどう膜炎は、目の内部にあるぶどう膜(虹彩、毛様体、脈絡膜の総称)に炎症が起こる状態です。この炎症が硝子体に影響を与え、浮遊する細胞や炎症の産物が飛蚊症を引き起こすことがあります。ぶどう膜炎は自己免疫疾患や感染症、外傷などが原因で発症します。症状が進行すると視力障害を引き起こす可能性があるため、早期の診断と治療が重要です。
飛蚊症の対策
飛蚊症を引き起こす老化の進行を止めることが重要です。まずは、目の老化を食い止めるための生活習慣を心がけましょう。
目を休ませる
パソコンの使用などによって眼精疲労がひどくなると、目を休ませない限り視力低下や目の健康状態の悪化を招く恐れがあります。きちんと睡眠時間を確保し、目を休める習慣を身に付けましょう。
栄養バランスの良い食事
目を酷使する現代人にとって、目の老化が進む年齢が低くなり、それに伴い飛蚊症の発症も早まっています。目を休ませることだけでなく、目の健康維持に必要な栄養素もきちんと食事から摂取しましょう。
特に、緑黄色野菜やビタミン群は目の老化防止に欠かせない栄養素です。日々の食事から必要な量をどうしても摂取するのが難しい場合は、サプリメントの利用をお勧めします。
また、眼病予防に役立つ代表的な栄養素としては、目の抗酸化作用を持つ「カロテノイド」の一種であるルテイン・ゼアキサンチン、ビタミンCやビタミンE、さらにビタミンEの1000倍の抗酸化力を持つアスタキサンチン、眼精疲労に即効性のあるアントシアニンが挙げられます。特にカシスなどにはアントシアニンが豊富に含まれているので、意識して摂取すると良いでしょう。
活性酸素の発生を予防する(紫外線、喫煙、
ストレス)
活性酸素の発生を防ぐことが、飛蚊症の大きな原因である「目の老化」を遅らせるための最も有効な方法です。若年層の段階では、網膜に存在している抗酸化成分である「ルテイン」が活性酸素を除去しますが、加齢とともにルテインが減少すると、活性酸素が蓄積して目の老化が進行します。
特に、活性酸素の発生原因となる紫外線や喫煙を極力避けることが重要です。
一説ではストレスが活性酸素を増やし、飛蚊症を増強させると言われております。日々のストレスを感じている方はリラクゼーションを取り入れてみましょう。
飛蚊症の治療
生理的な原因による飛蚊症は、特に治療の必要はありませんが、他の目の病気のサインとして生じている可能性も考慮しなければなりません。そのため、飛蚊症を自覚した際は一度眼科を受診することをお勧めします。飛蚊症を初期症状とする病気は早期治療が重要です。
網膜裂孔の場合、レーザー治療で進行を抑えることができますが、元の状態に戻すことはできません。網膜裂孔が進行して網膜剥離になった場合は、手術が必要です。飛蚊症の症状が続く場合や、視力が低下する場合は、速やかに眼科を受診してください。
検査の際は散瞳薬を使用するため、検査後の数時間は見え方がぼやけることがあります。そのため、ご自身でお車などを運転してのご来院は避けてください。
よくある質問
飛蚊症はほっといても大丈夫?
飛蚊症の多くは放置しても問題ありませんが、病気が原因で視力低下や失明に繋がるケースもあります。そのため症状に気付いた際は、眼科を受診して原因を調べるのが望ましいです。
病気による飛蚊症だった場合は、早期発見と適切な治療を通して、深刻な後遺症などを防ぐことができます。
飛蚊症に市販の目薬は使える?
現在のところ、飛蚊症に有効とされる点眼薬や内服薬はありません。そのため、生理的な飛蚊症の場合は、経過観察が行われます。病気による可能性が高いと判断された場合は、手術などの治療を検討します。
ご自身で判断するのは難しいため、飛蚊症の症状が心配な場合や、急に悪化したと感じた際は、放置せずにご相談ください。
スマホが原因で飛蚊症になりますか?
スマートフォンやパソコンなどのディスプレイから発するブルーライトは、硝子体内に活性酸素を発生させ、飛蚊症を引き起こす要因になります。
また、スマートフォンやパソコンを長時間使用するとまばたきが減り、目からの涙の蒸発量が増えることで、飛蚊症の原因となる可能性もあります。
飛蚊症で眼科を受診するタイミングは?
飛蚊症は、網膜剥離や緑内障など重篤な病気のサイン(病的飛蚊症)である可能性があるため、飛蚊症を自覚したら早めに眼科を受診しましょう。
特に60歳前後に突然飛蚊症を自覚した場合は、後部硝子体剥離の有無や網膜裂孔の有無などをチェックしてもらうことが大切です。