加齢黄斑変性は
目の生活習慣病
黄斑は網膜の中心部で、物を見るときに最も重要な部分とされている部位です。加齢黄斑変性は、この黄斑部の機能が加齢とともに悪化する病気で、視野の中央が歪んだり暗く見えたりします。欧米では中途失明の主要原因とされており、日本国内での認知度は高くありませんでした。しかし日本でも高齢化に伴い、近年増加傾向にあります。
加齢黄斑変性には「滲出型」と「萎縮型」の2つのタイプがあります。滲出型は脈絡膜に新生血管が生じることで発症し、これらの血管は脆く出血しやすいため、視力が低下します。萎縮型は網膜の細胞機能が低下し、徐々に網膜が萎縮するもので、進行は遅めですが治療法は存在していません。
加齢黄斑変性は60歳以上の男性に多く発症し、喫煙歴や肥満、高脂肪食の摂取、高血圧が危険因子とされています。日本でも発症率が増加しており、「目の生活習慣病」とも呼ばれています。
加齢黄斑変性の初期症状
加齢黄斑変性により黄斑部が障害を受けると、視力が低下したり、ものの見え方に支障がでたりします。中心が見にくくぼやけたり、歪んで見えたり、暗くて見えにくくなるのです。多くの場合、症状は片側ずつ起きるため自覚症状がなく異常に気づくのが遅れる場合があります。気になる方は、新聞などを片目ずつ比べて見て、見えづらい部分がないか、ゆがんで見えたりしないか確認してみるのも良いでしょう。
加齢黄斑変性だと歪む?
見え方チェック
よくある初期症状として、「視野の中心部が歪んで見えること」が挙げられます。黄斑部がダメージを受けることで、歪んで見えるのです。それ以外の初期症状として、視界がぼやける、かすむといったものも挙げられます。
進行すると、視野の中心部が暗く見えなくなったり(中心暗点)、色の識別が難しくなったりします。これらの症状をそのままにしていると、最悪の場合、失明に至ることもあります。
- 約30cm離れた位置から、上記の図を見てください。
- 左右片目ずつ、真ん中にある黒い丸に視線を向けましょう。
- 黒い丸に視線を向けた時、どこかのマス目が歪む、ぼやける、欠けるといった場合には、加齢黄斑変性などの目の異常が生じている可能性があります。放置せずに当院にご相談ください。
加齢黄斑変性の種類
萎縮性加齢黄斑変性症
萎縮性加齢黄斑変性症は、最も一般的なタイプで、黄斑部の細胞が徐々に死滅することによって視力が低下します。これは、網膜下に異常な色素沈着(ドリュース)や視細胞の萎縮が進行することによって発生します。
直視することが難しくなり、視界の中心がぼやけたり、ゆがんだりすることがあります。視力の低下がゆっくりと進行します。
通常は遅い進行を見せますが、萎縮性加齢黄斑変性症が進行すると滲出性加齢黄斑変性症に変わる可能性があります。
滲出性加齢黄斑変性症
滲出性加齢黄斑変性症は、黄斑部の下に異常な血管が形成され、これらの血管が漏れ出すことによって視力が急激に低下します。漏れた血液や液体が黄斑部を損傷し、視力障害を引き起こします。
萎縮性加齢黄斑変性症よりも急速に視力が低下し、視界に黒い斑点や歪みが見られることがあります。中心視力の喪失が突然起こることが多いです。
滲出性加齢黄斑変性症は急速に進行するため、早期の診断と治療が重要です。
加齢黄斑変性になりやすい人
- 60歳以上
- 加齢黄斑変性症の家族歴がある人
- 特定の遺伝子(例えば、CFH、ARMS2など)女性
- 女性
- 喫煙者
- 長時間の紫外線曝露
- 肥満や高BMI
- 高血圧や高コレステロール。
- 抗酸化物質(ビタミンC、ビタミンE、亜鉛などの栄養素)の不足
- 網膜の異常(ドルーベン)
加齢黄斑変性の検査
眼底検査
目の奥に光を照射して網膜をチェックする検査です。この方法により、網膜の血管の状態や出血、滲出の状態が分かります。
視力検査
加齢黄斑変性では、視力低下が見られることがあります。視力検査では、遠くや近くの物がどの程度はっきり見えるかを調べ、黄斑の異常による視力の変化を早期に確認することができます。
光干渉断層計(OCT)
網膜の層構造を断面的に観察することができる検査です。この検査により、滲出や新生血管の状態が分かります。
OCTアンギオグラフィー
(光干渉断層血管撮影)
造影剤を使用すると、以下のような写真が撮影できます。造影剤を使用した場合、稀に吐き気や嘔吐、アレルギー反応などの副作用が生じる恐れがあります。
加齢黄斑変性の治療
従来は薬物療法やレーザー治療、手術などで新生血管を退縮させて視力を回復させる方法が取られていました。しかし、近年では抗VEGF薬(ルセンティス・アイリーア・バビースモ)を直接硝子体腔に注射することで、良好な結果が獲得できるようになりました。
抗VEGF療法
(抗血管新生薬療法)
加齢黄斑変性症の中でも、黄斑部の脈絡膜から新生血管(異常な血管)ができる滲出型については、症状の進行スピードが速く、急激に視力が低下するのを特徴としています。新生血管は脆く、黄斑が出血したり浮腫んだりすると、視細胞の機能が障害されます。この薬は、新生血管の成長を促進する体内のVEGF(血管内皮増殖因子)の働きを抑制させるものです。眼内に注射することで、新生血管の増殖・成長抑制効果が得られます。
レーザー治療(光凝固術)
レーザー光線を新生血管に照射して成長を止めますが、同時に網膜も凝固されるため、照射部分では視力が失われます。黄斑部の中心部分に新生血管がある場合や、多量の出血が見られる場合には、硝子体手術を提案することがあります。
光線力学療法
光感受性物質であるビスダインを腕の静脈から投与し、弱いレーザーを照射して新生血管を閉塞させます。この治療が必要な場合は、提携先の医療機関へご紹介します。ビスダインは新生血管に集まる特徴を持ち、レーザー照射で活性酸素を発生させて新生血管を閉塞し、出血を止めるのに有効とされる薬剤です。
加齢黄斑変性は完治するのか
加齢黄斑変性症は、現在の医療技術では完治することは難しい疾患です。ただし、特に滲出性加齢黄斑変性症に対しては、症状の進行を抑えたり視力を一部回復させたりする治療法が存在します。
萎縮性加齢黄斑変性症は進行がゆっくりで、治療法が限られています。サプリメント(ビタミンC、ビタミンE、亜鉛など)や抗酸化物質の摂取が進行を遅らせる可能性がありますが、視力の回復や完治には至りません。
滲出性加齢黄斑変性症に対しては、抗VEGF薬(血管内皮増殖因子阻害剤)の注射治療が一般的です。この治療は、異常な血管の成長を抑え、視力の安定化や一部の回復を期待できますが、根本的な治癒をもたらすわけではありません。加齢黄斑変性症の進行を抑えるためには、早期発見が重要です。定期的な眼科検診を受け、異常を感じた場合はすぐに眼科へご相談ください。
治療を継続し、生活習慣を見直すことで、視力の維持や生活の質の向上が期待できますが、現時点では完治を目指す治療法は存在しないことを理解しておく必要があります。